核スピンの磁気エネルギーは非常に小さいため熱擾乱に負けて、スピンの向きがほとんどバラバラになっており、発生する電磁波は打ち消しあって、非常に弱くなってしまいます。
近年、NMRの感度を上げるために、動的核偏極(DNP)と呼ばれる手法が活発に研究されています。
この手法ではフリーラジカルを少量添加したサンプルを用います。
このフリーラジカル内の電子スピンに歳差運動と同じ周波数の電磁波を照射したとき、電子スピンの首ふり運動の角度が変化します
(NMR(核磁気共鳴)、ESR(電子スピン共鳴)とは参照)。
この変化速度に、核スピンが共鳴する周波数が含まれるとき、電子スピンと核スピンの向きが交換されます。
これによって核スピンの向きを揃えることを動的核偏極と呼びます。スピンの向きの揃い具合を示す偏極率と呼ばれる値が、熱平衡状態では電子スピンの方が、
水素核スピン(原子核のなかでもっとも偏極しやすい)の660倍あります。放出される電磁波の強さはこの偏極率に比例するので、動的核偏極では原理的には660倍の信号強度増大が可能となります。
温度が低いほど熱平衡状態の電子スピンの偏極率は大きくなるので、従来の動的核偏極はより高感度を求めて極低温下で行われています。
|